代表世話人挨拶

itatani

 京都府立医科大学大学院 医学研究科
  心臓血管外科・心臓血管血流解析学講座 講師
  成人先天性心疾患センター  
 板谷 慶一 

 

昨今のコンピューター技術の飛躍的な進歩に伴い、多くの産業分野とともに心臓・血管系の画像診断領域においても、多大な技術革新がもたらされているといっても過言ではないと思われます。その技術革新は従来の白黒静止画像で診断しレポートを書く時代からカラー動画を見ながら診療カンファレンスを行う時代へと変容をもたらし、機能診断を必要不可欠とする循環器診療においては、単に情報処理速度を向上したということにとどまらず、診療の質を向上させるような変革をもたらしたのではないかと考えられます。

そのような時代の中、近年血流という生体現象を様々な方法で可視化する技術が台頭しつつあります。血流計測は古くから確立された方法としては超音波カラードプラ法とPC (phase contrast) MRI法ですが、例えばMRI血流計測に関してはPC法を断面通過(through plane)方向のみならず面内流れ(in plane)の血流速度分布計測にも適用したphase velocity mappingに基づいて計測断面内で3次元の血流速度を計測・可視化するような技術や、さらには3次元的な空間速度情報に時間的変化を加味した4D MRI (3D cine PC MRI)が台頭し、シーケンスそのものは一般診療で使用可能な装置の一部に組み込まれています。また、流れの可視化法の一つとして広く知られるコンピューターを用いた流体シミュレーション(CFD: computational fluid dynamics)は気体や液体の流れを仮想的にシミュレーションする方法として天気予報から自動車のエンジンの設計まで幅広く工業的に用いられている手法ですが、1990年代より単純な血管形状内での血流のシミュレーションに使用されるようになり、今世紀初頭からはスーパーコンピューターを用いた心筋壁運動と連動させた心内血流のシミュレーションが報告されるようになり、また近年では医療用DICOM画像に基づく個々の患者の血管形状に合わせた数値モデル(patient-specific model)が先進国を中心に多くの研究施設で普及するようになってきました。また、超音波血流可視化に関するこの10年間の進歩として、超音波を用いた心内血流可視化法としてEhco-PIV (particle imaging velocimetry)法やVFM(vector flow mapping)法が開発され、超音波ビームライン方向に制限されない血流速度をベクトルとして可視化し、心室内渦流を定量し、そこから生理学的なあるいは病態生理学的な意義を見出そうという試みがなされるようになってきました。

このような血流可視化の先進技術は魅惑的な画像を提示し、臨床応用に多くの期待が寄せられる一方で、見たこともない画像や聞いたこともない情報を提示するため、しばしば臨床医に戸惑いを与えていることも事実です。その原因として大きく二つの要因が挙げられると考えられます。一つには技術の精度評価に関しての問題です。計測技術には十分な精度が必要なことは当然ですが、『精度を向上させる』ためには一筋縄ではなく、多岐にわたる学問領域の基礎的な力を要求されることがしばしばあります。例えば超音波による血流可視化法は複数の手法が乱立してきた歴史を有するためか、それが確立された技術となるためには数学的・流体力学的に矛盾のない理論的基盤を有し、かつ実験による精度検証を経ることが必須とされる風潮があります。また、MRI血流可視化においてはしばしば時間空間分解能が議論され、限られたスペックの中で、対象とする系や疾患において、必要とする指標が十分な精度を持つかどうかがしばしば議論されます。一方際限ない時空分解能を有するCFDでは解が計算値であるために生体内の流れを生理学的に再現するための計算仮定を置くことが要求され、循環生理学の深い知識や実験的なデータの蓄積に基づきモデルの精度向上のために不断の努力がなされてきた事実があります。

もう一つの問題点はより重要なもので、新しい技術の臨床応用の方法に関する問題です。例えば「心室内の渦流が見えるとして、それをどう解釈したらよいのか」といったことや「shear stressのカラー分布がわかるとしてそれが高いことないし低いことが内皮にどのような影響を与え、血管病のoutcomeにどのようにかかわるのか」といった類の問題です。最先端技術に振り回されず、よい技術を使いこなすにはどうすればよいのかということは、日常診療の中で容易には解決しにくい事柄に対してじっくりと向き合うことと同時に、視野を広く持つことが解決の糸口になりうることはしばしばあるのではないかと思われます。すなわち臨床現場の側からの問題提起・要求を的確に伝え共有し、解決に直結する技術を探し求めるという方向性と新しい技術・新しい指標が開発されそれを種々の臨床的課題の中でよく適用される系を見つけるという方向性との両方が相まってなされるのではないかと考えられます。

そのような時代背景と社会的需要の中、今回心筋会の姉妹会として竹中克先生の号令のもと血流会が発足しました。心臓超音波・心機能をどこまでも掘り下げていく心筋会に対して、血流会の使命は「血流」に対象を限定しますが、幅広い分野の研究者の学際的な交流の場を提供することではないかと考えています。その意味では心筋会前世話人の納富雄一先生が挨拶の中で述べられているように既存の枠組みにとらわれない視点をもち、問題を解決していく「水平思考(Lateral thinking)」を促進させるための研究会であるべきだと考えています。また納富先生は同研究会の挨拶文の中で最新マシンに振り回されることなく「先人たちの輝ける知識」「先人たちの知恵・知見」に根差すことの重要性を述べていますが、最新技術が台頭しそのフロンティアに立つからこそ、今の時代を生きる意義を知り、先人の叡智により深く向き合うことができるのではないかと僕は考えています。

血流会はVFMの研究者の間で行われてきた「血流を見ることの意義」・「血流を計測することの確からしさと限界」について白熱した議論が発端となり、VFMという一つのモダリティに限定されず、「血流」を見ることのむずかしさと意義についてより学術的に議論を発展させ、一つの新しい学問領域を切り拓く価値があるのではないかと考えるようになった複数の研究者たちによって設立されました。

本研究の設立にご協力いただき、またご支援いただいた多くの研究者・多くの臨床家の先生方に心より御礼申し上げます。皆様の活発なご討議をよろしくお願い申し上げます。

平成25年10月8日 北里大学医学部 血流解析学講座 特任准教授 板谷 慶一